日本電信電話ユーザ協会大阪支部
フリーエッセイ.11

安川電機代理店
芳賀電機株式会社
取締役会長
芳賀 洋

 仙台市の西、雄大な緑に包まれた秋保温泉を訪ねる機会があった。門前に30年前の皇太子行啓の記念碑の建つホテルでご厄介になったが、ロビーの奥の小じんまりしたバーに、一寸魅力を感じたので、宴会のあと覗いてみた。

 真鍮(しんちゅう)の太い握り棒、深い緑色の大理石製のカウンター、がっちりした木造りなど眺めていたら、バーテン氏から、これは英国のウェールズのどこか、セントラルという名のホテルにあった100年前のバーで、それをそのまま移設したものです、との説明があった。

 狭いが落着きがあり、かつ風格を感じつつ、まずは「かがり火」という名のこのホテルの地ビールを注文してみた。ベルギーのビール風でコクがあり、さらっとした喉ごしで仲々のもの。これを賞味しながら、改めてバーを見わたしてみた。

 この100年は、政治、経済、文化と大激動の時代であった。第一次大戦のこともあるが、まずは先の大戦でのチャーチルとかヒットラーのこと、私にはわりと身近なように思われ、あの頃、英国紳士がこのバーを握ってどんなことを議論したか、悲喜こもごも沢山の出来事があったであろうこと、この大理石にはCD盤ではないが、100年間の沢山の声と姿がしみ込んでいるに違いないなどと、まあ色々と想像して感銘深いひとときを過した。

 また来るチャンスはまずないと、傷はあるがよく磨き込んだ真鍮バーをさすって退出した次第である。

(ホテル・緑水亭)

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