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東洋大学 経済学部教授
松原 聡 氏
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平成16年10月7日、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で、平成16年度第1回「情報通信活用セミナー」が開催されました。
第二部ではIT革命の現状と未来、ビジネスチャンスへの活用などについて経済学者、経済評論家としての立場からわかりやすく解説されました。
IT革命によって変化するもの
私の専門は、民営化、規制緩和です。いま、郵政の問題が議論になっていますが、総務省では郵政三事業(郵貯・簡保・郵便)一体を強く志向しています。その理由は、三事業が分割されて、郵貯や簡保が独立し「日本郵便貯金銀行」あるいは簡保が「日本郵便保険株式会社」になったりすると、金融の分野になるため、金融庁がコントロールすることになり、総務省は権限を失うことになります。
その結果総務省に残るのは郵便だけ。郵貯や簡保は350兆円規模の事業です。それを支配する権限を有するか否かは官庁の権限としては決定的。逆に郵便は10万人もの職員がいて、人件費もかさみ、おいしいとはいえません。
現在の郵便の4割は金銭関係で、個人は年賀状を入れてもわずか15パーセント。大半が電力や電話、クレジット会社からの請求書で、残りがDMです。電子メールや携帯メールの普及によって郵便の将来が危なくなるというのは間違いです。では、問題は何か。
実はeビリングが大きな波紋を投げかけています。これは請求書を手紙ではなく電子メールで受け取るサービス。そうなると基本料が割引になるなどのサービスがあります。印刷や郵便料金などのコストがかからなくなるのでこれは当然のサービスです。
郵便事業の4割を占める金銭関係の請求その他が全部このeビリングになった場合、郵便は大変な減収になります。すでに今、実際に固定電話や携帯に関しては、このサービスを利用した方が安くなります。いずれ電気やガス、水道もこちらにシフトすれば郵便の市場は先細りになるのが目に見えています。金銭関係というのは、数も多く、しかもポストから回収する必要がないので、コストもかからない、いわば郵便の稼ぎ頭です。それがなくなるわけですから、もろにIT革命の影響を受けることになります。
総務省は儲かる見込みのない、先行きの厳しい郵便事業だけを残され、350兆円規模の郵貯、簡保を金融庁にとられるのは耐えられないということで郵政3事業一体できないか孤軍奮闘しているわけです。総務省では郵政のシステムを分割するために3〜5年かかるなどといっていますが、私はこれはおかしいと思っています。こんなに時間がかかるのは企業経営からいえばあり得ない。それは理屈をこねているだけです。郵便がそれだけ残った日には総務省は大変だということです。しかし、IT革命にはそういう側面があります。逆にこういう分野に関しては郵便のマーケットが消えてなくなるのではなく、電子メールなどにシフトしていくわけですから、新しいビジネスチャンスがでてくるということもいえます。 IT革命の本質とは
では、IT革命とはどういうことでしょうか。IT革命にはいろいろな場面があります。第一にB2B。以前はB
to Bと書いていましたが、アメリカからいつの間にかB2Bと書かれるようになりました。これはビジネス同士の資材や部品の調達などをネット上で行うものです。B2Cはコンシューマが企業からネット上でものを買うこと。メーカーのサイトに行くことも、量販店のサイトに行くこともB2Cです。
一方、C2Cと呼ばれるものがあります。これは個人同士の取引で、フリーマーケットのようなもの。ネットオークションがそれにあたります。従来はあり得なかった個人間のやりとりが、簡単にインターネット上でできるようになっています。 もう一つ、おもしろいのはG2G。Gはガバメントです。政府と自治体、自治体間のやりとり。これは非常に情報量が多く、そのやりとりはeガバメントとしてネット上に乗っているので、これもITの大きな要因のひとつだと考えられます。
同様にG2Cというのもあります。この場合のCはコンシューマではなく、シチズン。政府と個人のやりとりが、ネット上で可能になります。電子納税や、印鑑証明の取得などいずれネット上で、コンピュータで自動的にできるようになるでしょう。
このように、ITが様々な場面で私たちの生活に入り込んで影響を与えています。政府も自治体も企業も個人も、それぞれが社会や経済に対して影響を与えるのは、BCGというひとつひとつの主体が、IT化されていなければいけないということです。そうでなければ、B2BやB2C、C2C、G2G、G2Cなどは普及しません。
NECがCMで使った言葉にコンピュータ&コミュニケーションズ(C&C)という言葉がありますが、コンピュータがコミュニケーションする、まずはインターネットにつながるというのが、IT革命の本質だと考えています。
進むブロードバンド化
私がパソコン通信を始めた1980年代のはじめ、通信はモデムではなく、音響カプラーを使っていました。通信速度は300ボー。毎秒300ビットで情報のやりとりをします。それがだんだんスピードアップし、ISDNは毎秒64000ビット。これはまだブロードバンドではありません。そして1メガ、8メガの時代になり、光ファイバになると100メガ。毎秒1億ビットです。音響カプラの33万倍、非常に速度が上がったということです。これを計算するといま1分で処理できる情報が音響カプラーなら、33万分、230日かかるということになります。時間もコストも非常にかかります。
300ボーの時代、情報伝達は単語、言葉でしたが、速度がアップするに連れ、画像、写真、そして動画へと手段が変わっていきました。文字から動画になると情報伝達力は格段に向上します。これはネット上でものを買う場合でも情報量が全く違います。動画で商品を見ることによってリアリティが格段にアップします。そうなるとものを買う場合でも、ネット販売を利用しやすくなり、店へ行かなくてもよくなります。さらにネットならサービスも向上します。私の場合、ネットで買ったパソコンがたった2日間で修理されて戻ってきました。つまり、B2Cが普及する根拠として光ファイバがあり、それに応じたサービスが登場してきているということです。
売れるPTA
経済の方からIT革命を見た場合、私はPTAという言い方をしていますが、3つの売れ筋商品があります。
まず、Pはパソコン。本体プラス周辺機器で20万円はするような商品がこの5〜6年カラーテレビ以上に売れています。こんなにビッグな売れ筋商品はいままでありませんでした。
Tはちょっとこじつけですが、携帯電話。年間新規契約が約1千万台、買い換え需要が3〜4千万台で毎年5千万台近く売れています。こんなに売れる商品は従来なかったと思います。3万〜8万円もするような商品が年間5千万台も売れているのは大変な話です。また、携帯電話の利用料金も平均8〜9千円程度。年間では約10万円に上ります。4千万台以上ありますから、それだけで4兆円の市場です
そしてAがAV、オーディオビジュアル関連商品です。技術者は「ひも、板、石」という言葉を使います。これはコンピュータ上の記憶媒体を示しています。昔はひも=磁気テープでした。そのあと板=光ディスクになり、石=半導体に変わりました。AVの分野でもこの通りに進んでいます。カセットテープやビデオテープから、CDやDVD、そしてICへと変化しています。カメラなどは板を通り越してデジカメ=石へ一足飛びです。
商品がこうして一足飛びに変化すると売り上げ事態も変化します。つまり、買い換え需要ではなく、新規需要になります。それが一番顕著に表れているのがAVの分野。こうしたものが売れているのは日本経済には大変な影響があります。これほど大きな売れ筋商品がそろうのは久しぶりです。こういう非常に力強い商品がそろっているということが経済にとっては大きくて、ちょっと消費が回復すれば、経済、景気が回復基調になると予想できます。
IT革命が変えるビジネス
そしてITが本当に革命だというのは基本的に商取引のあり方が変化しているのではないかということ。従来、何千年もの間経済の歴史は、基本的に相対取引でした。だから商品が多様化した日本の様な高度な消費社会は、人が集まるところにしか大規模店舗が作れないという宿命がありました。
しかし、ITはそれを崩すというのが、革命です。ネットで商品を購入することは時間と距離の制約がなくなることです。すると無理をして都会に住む必要すらなくなります。これは経済にとって革命だと私は考えています。
もう一つの視点でお話ししたいのは、ネット販売が進展すれば、メーカーの直販で店舗に置いたり、販売員を置いたりする必要がなくなります。これがどんどん普及すれば、日本の物価水準が3割は安くなる可能性があります。
現在、一般のB2Cで見る限り、家電メーカーの直販価格は家電量販店の価格とほとんど一致させています。これによって量販店から直販へのコンシューマの大きな移動が押さえられていると考えられます。しかし、こういったものはどこかで崩れれば、さらに安く販売するところがあらわれると考えられます。
しかし、もっと大事な見方があると思います。つまり、「ネットに乗るものと乗らないもの」。パソコンやゲーム機などは実はネットに乗りません。これは売買だけがネットに乗っているものです。こちらは2割引、3割引が精一杯の世界です。
ネットに乗るものは情報。その代表が音楽です。1000円のものが2−300円にまで安くなります。もう一つ、11,500円のものが800円になるものがあります。これは株の売買手数料。かつての株取引の手数料は1.15%でした。つまり、100万円で株を買えば、11500円の手数料が必要でした。しかし、ネット証券では100万円で1回800円の手数料という会社もあります。つまり、株の売買がネットに乗ったことで価格破壊が起こったワケです。
また、ホームページ上から株取引を行う時には証券会社の規模は関係ありません。大証券会社も,中小証券会社もネット上の勝負は五分五分です。むしろ、大手証券は全国に店舗や営業マンを抱えているため、高コスト体質で、それが弱みになります。後発組のイートレード証券などの方が有利だということになります。
思考実験で検証する
ほかにもネットに乗るものは様々あります。これらがネットに乗ったことによる結果はまだわかりませんが、思考実験が必要だと考えています。たとえばeラーニング。東洋大学の提携校のモンタナ州立大学では日本にいても、アメリカの公認会計士の資格を、モンタナ大学の単位を全部取ることができます。大学教育はネットに乗せることができるといえます。
しかも日本中どこに住んでいてもその機会を提供できるということがすばらしい。そうなれば大学の大教室などは不要です。大学教育のコストが下がり、教育の機会を増やすことができます。ただ、大学は少子化によりマーケット自体が縮小傾向で、さらにネットに乗ることによって安くなります。私は給料が半分になっても仕方がないと思っています。
あるいはカラオケ本もネットに乗ります。従来の印刷物からネット上でカラオケのリストを取れるようになる。これは毎年300万部売れるベストセラーですが、それがネットにシフトすることで印刷からハードを提供している企業に需要が移行することになります。
もう一つ、産経新聞ではすでにネット上で新聞紙面を配信しています。この新聞はカスタマイズが可能で、しかも安く、かさばらず、古新聞もでません。非常に便利です。一方で私はこれが思考実験だと考えています。新聞が新聞たるゆえんは、新聞社が輪転機を持っている点。しかしネットに乗せることによって他業種の、輪転機を持たない事業者が参入できるようになるでしょう。この点で思考実験が必要だということです。
さらに携帯電話。カメラやGPS、鏡など様々なものと一体化し、成功したり失敗したりしていますが、これもネットに乗せることができます。
ITをビジネスチャンスに生かすために
しかし、これらをネットに乗せる時、どうしても考えなければいけないのがセキュリティの問題。売り手はものを送ったのに金が入らない、金を払ったのにものが届かないといった相対取引ではあり得なかったリスクが生じる可能性があります。
これを防ぐにはオークションサイトによるチェックのほか、エスクローサービスというものがあります。アメリカなどで非常に増加しているサービスですが、ネット取引の間にひとつ会社が入るシステム。ネットで取引が成立したら、買い手から代金を預かり、売り手から商品が発送されたところで代金を売り手に支払います。これなら、未払いや商品が配達されないというトラブルを未然に防止することができます。
さらに携帯電話やICカードを使った電子マネーも続々登場しています。このようにITは時間と距離を克服し、機会を均等にするいい技術です。そのために大切なのは利用者のセキュリティ、政府がどうやって誘導するか、さらにインフラとなる通信やコンピュータ、携帯電話などの普及が大切です。電子マネーやカードの普及も必要でしょう。これらをいい方向に利用できれば社会や経済の回復にも活用できると考えています。みなさんもITを活用し、ビジネスチャンスに生かしていけば、おもしろいことができると考えています。 |