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日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所所長
外村 佳伸氏 |

平成20年7月23日、ザ・リッツカールトン大阪で、ブロードバンドセミナー2008が開催されました。
第二部では「伝心伝和」の実現をめざして 〜コミュニケーション環境の未来に挑む〜 というテーマで、講演が行われました。
知能は環境に宿る
私たちの研究所では「未来のコミュニケーション環境」について研究しています。テーマは「場を重んじる」、「人を活かす」「心に届く」。キーワードは「環境知能」、めざしているのは「伝心伝和」です。
情報通信技術が発達し、ケータイやメール、ウェブ情報、ブログ、ワンセグなど一昔前では考えられない時代になりました。一方で、人は技術と人情の板挟み。変化に追いつけなかったり、わかりにくかったり、違和感を感じることもしばしばです。
人工物やICT(Information and Communication Technology 「IT」と同義)の浸透によって、人をとりまく環境と本来人間が進化した環境が乖離しつつあります。そこで、21世紀はもう少し人間回帰しようというのが私たちの考えです。人間の身体感覚を活かし、ありのままの人間性を前提に、もっと人にとって安寧な環境を提供しようと考えています。私たちは「知能は環境に宿る」とし、ものごとを環境の中でとらえ、環境として働きかけることが重要と考えています。また「QOL (Quality Of Life) をめざす」とし、長期的視点で人間性を大切にすることとあわせ、技術開発における重要な視点としています。
点から場へ コミュニケーションの変化
コミュニケーションとは、意思や感情、思考が伝わりあい、理解できることです。人はやりとりする情報を手がかりに、いままで得た知識や経験、想像、推測などによってその内容を補完し、理解します。異文化コミュニケーションが難しいのは、それぞれの持つ背景が違うためだと考えられます。
ブロードバンド時代はさまざまなメディアが存在するリッチメディアの時代。これらのメディアを活用すれば、共通した理解の基盤を持てる可能性が出てきます。そのための必要条件をそろえた環境を「場」と定義します。コミュニケーション環境は電話による点と点から、メディアの多様化、グローバル化により「場」へと移行し、声だけでなく、情報や知識、雰囲気、背景などさまざまなものを送れる時代になりました。
きょうの主題の「伝心伝和」は気持を伝えるコミュニケーションの原点。伝心伝和にはその文字通り、心を伝え、和を伝える気持ちを込めています。これが私たちの精神的なミッションです。
「場を創る」技術
環境知能を使った「場」のコミュニケーションのために、「場」をどう創るかが大切です。そのための技術として、私たちは「t-Room」を開発しました。これは遠隔の人、時間的に離れた人たちと同じようなところにいる感覚「同室感」をかもし出すシステムです。ディスプレーとカメラを組み合わせた空間を複数の場所に設置し、ネットワークで結んだシステム。
遠隔地にいる人同士が会話をしたり、擬似的に触れあったり、その時間にはそこにいない人を映像に重ね合わせてあたかも存在しているかのように感じさせることもできます。また、時空間の記憶、つまり過去の記憶を参照することも可能です。
コミュニケーションは携帯電話によってパーソナル化し、SNS(Social Networking Service)やWebによってコミュニティー化、メールやブログによって情報伝達化しました。そしてt-Roomによって「場化」を実現します。
「場を読む」技術
「場を読む」技術のひとつにセンサを使ったものがあります。これをs−roomと呼びます。実世界の現象をセンシングし、そのデータを蓄積し、ウェブにつなぎます。これを「Sensor-to-Web」といいます。
その一例としておもしろくなりそうなのが、「モノ参加型ブログ」。センサを付けられたさまざまなモノが、人格を持ったように自発的にブログを書きます。例えばマグカップが落下したことに反応して「私は○○のマグカップです。いま、すごい衝撃を受けました。私生きてますか?」と、ブログにポストします。広告媒体商品としての可能性や著名人のモノブログ、あるいは、モノ自体のタレント化、モノ自らがビジネスを行うといった従来にない可能性を秘めています。
「場を読む」の二つめは、人間の会話を理解すること。音と画像を総合的に扱い、会話シーンを分析します。会話の構造をリアルタイムに分析し、「見える化」する技術です。これにはすでに研修や研究で使えないか問い合わせが来ています。
「心が伝わる」妖精・妖怪
一番難しいのが「心が伝わる」。私たちはこれを現代版妖精・妖怪の世界と定義づけ、M-room(まっしゅるーむ)というものを考えました。妖精・妖怪は、人間と精神レベルでかかわり、安・寧・驚をもたらし、人が環境と折り合うためのインターフェースと考えることができます。M-room(まっしゅるーむ)はそのような働きをするぬいぐるみのようなもの。ずっと一緒にいたい、あるいはいられる存在と定義づけています。いろいろな種類があり、たくさんいて、つながっている存在です。
たとえば、夫に先立たれたおばあさんが寂しそうにしていたら、夫の声で話しかけたり、結婚記念日を思い出させてくれたりします。M-room(まっしゅるーむ)は人の心情を察したり、見守って孤独を慰めたり、家族の記憶を記録したりします.環境知能は時と場所を越えて人と人とを結びつけてくれるものです。
「人間を知り、活かす」技術
「人間を知り、活かす」ための、第一の観点は「知覚・認知」。人間の知覚や認知のメカニズムは非常によくできています。人間の視聴覚は非常に環境に適応しやすくできています。そういった点をよく知ることで、技術に活かせるのではないかと考えています。
また、意識的なこと、無意識的なことというのも、私たちが取り組んでいるテーマの一つです.無意識の行動は非常に複雑ですが、ある部分は訓練によって精度が上がります。この意識と無意識のメカニズムを安全指針や設計方針、操作精度向上に使えないかと考えています。
「人間を知り、活かす」ための観点として「ことばの発達」というものもあります。そのひとつとして人間がどのようにことばを覚えるかを研究しています。この研究では個々の子どもを追跡研究するほか、広範囲にデータを収集しています。そのために創ったのが「こども語辞書」。これは、NTTが展開するポータルサイト、gooにある「goo ラボ」からアクセスすることができます。
そのほか、同じくgooラボには、人間の直感を活かす試みとして、ブログに見られる世の中の動きを可視化する「BLOG RANGER TG.」や、人の創造性を活かす「うごうごブログ」があります。これは絵で描くブログです。これらの技術は私たちの研究の一端です。私たちは「心に届く」ことに重点を置き、これからも伝心伝和の世界を追求していきます。

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